書評:ストーリーとしての競争戦略


sunさんみやびさんなど、多くの方が取り上げていらっしゃいますが、私にとっても多くの学びがありました。著者の楠木建さんは一橋大学の戦略論を専門とする教授です。「儲かる会社とは」「戦略とは何か」ということへの探究心・情熱を感じる方で、共感と膝を打つような気持ちで読みました。

私が印象に残ったのは以下の内容です。

戦略でないもの
ある大企業での事業戦略プレゼン。「目標設定(10%伸ばす)、ビジョン(世の中を変える)、組織体制」で終わり。これは戦略ではない。戦略とは「競争がある中でいかに”違い”をつくるか、その手立てを示すもの」のこと。

SPOC
戦略論ではSP(Strategic Positioning)とOC(Organizational Capability)の2つを明確に分ける。レストランで言えばSPとは立地やレシピのこと、OCとは素材や料理人の腕前にあたる。
SPの戦略はいわゆるポーターのポジショニング論。組織が同じでも勝てる要素をつくること。
OCの戦略は組織強化を目指すもの。言語化できない「物事のやり方(ルーティーン)」が強みになるため結果的に模倣が難しい。

ストーリーとしての競争戦略
競争戦略がストーリーという上位概念で統合されているもの。例えばスターバックスがフランチャイズを持たず全て直営で行うなど、一見して非合理だがストーリーの文脈では強力な合理性を持っている戦略のこと。普通の会社はこのレベルでの統合ができないため模倣ができない。

「戦略でないもの」や「SP/OC」の話は社内に溢れすぎていて苦笑いしてしまいました。立地やレシピを変えられる(SP)のは経営レベルしかありませんが、そこには手を入れずにOC(社員頑張れ)に注力。そして結果的に業績横ばいとなり、更にOCに力を入れようとするという悪循環は日本企業あるあるではないでしょうか。

また私の投資手法はSPにしている特化しているということも改めて認識しました。OC(組織の強さ)は投資家から見えませんし、SPがしっかりしていればそれで十分という考えているのだと整理がつきました。

またストーリー戦略はビジネスモデル(地形のようなもの)よりも上位の概念ですが、これを実践している企業は稀ですので「あるに越したことはないもの」と捉えるべきものと理解しました。投資家の視点ではビジネスモデルが強い企業であれば十分合格だと思います。

というわけで、思考の枠組みのことをフレームワークと呼びますが、まさに優良なフレームワークを頂けるようなそんな一冊です。おすすめです。
そして、この本を推薦して頂いたぺんぎん(ペンタ)さん、感謝です。

『書評:ストーリーとしての競争戦略』へのコメント

  1. 名前:みやび 投稿日:2016/11/28(月) 07:05:15 ID:71ab1cf2f 返信

    すぽさん おはようございます。
    会社内にSP/OCが溢れているとのことですが、多分OCでなくOE(Operational Elfectiveness)のことかな?と思います。
    (それともOCを求めているが、OCまでたどりつけていない?)
    OCとは「他社が簡単にはまねできず(まねしようと思っても大きなコストがかかる)、市場でも容易には買えない」ものであるため、このOCを持っていいる企業もSPと同様に、他企業と比較してかなりの強みを持っていると思っています。
    (パッと見分かりづらいので判断が難しいですが…)
    SPとOCが優れていて、更にコンセプトが素晴らしい競争に勝つストーリーを持った企業を見つけたいのですがなかなか無いのと、わかりにくいOCやストーリー(これらは内向きなので)をどのように判断するかは、まだまだ研究する余地が大きいと思っています。

  2. 名前:すぽ 投稿日:2016/11/28(月) 09:36:13 ID:589fc6ab0 返信

    みやびさん、ありがとうございます。
    ご指摘の通りでOCというよりOEの話ですね。
    定義としては大きく違うのかもしれませんが、私の中ではOCとOEは似ているものと捉えています。「ポジショニングとは異なる、内側にあるはっきりしないもの:みんな頑張れ系」です。
    OCの例としてトヨタとセブンイレブンが出ていましたが、これもOEの延長として捉えることもできますし、日本企業には気づいたらOCになっていたというのが多いように思います。そもそも狙ってできるものなのかもよく分かりません。
    ストーリー、SP、OCはフレームワークですので、全て良い方がいいのは当たり前ですよね。この中でどれを重要と考えるかが私たちに求められているのだと思います。

  3. 名前:sun 投稿日:2016/11/29(火) 09:34:11 ID:f8b54c724 返信

    SPがしっかりしていればOKという点ですが、あまりにも儲かりすぎて目立ってしまうと競合参入のプレッシャーが強まり、成長に赤信号が灯る事例を主力だったアルファポリスで経験して難しいものだなと痛感しています。
    だからこそ一件して非合理なキラーパスを有していると確信できる会社を見つけたいと頑張っていますが、おっしゃるように難しいですよね。
    とりあえず有利なSPを確立している会社を見つけて、競争激化の兆候が少しでも見えていないか?(アルファポリスはライトノベルの鈍化というシグナルが出ていたのにそれを軽視してしまい失敗しました)を常に警戒しつつやっていくしかないのでしょうか。
    立地やレシピを変えられる(SP)のは経営レベルしかありませんが、そこには手を入れずにOC(社員頑張れ)に注力。そして結果的に業績横ばいとなり、更にOCに力を入れようとするという悪循環は日本企業あるあるではないでしょうか。
    これも同感ですね。根性や気合でなんとかなるみたいな空気を作って、がむしゃらに長時間労働を強いる働き方は、経済全体のパイが大きくなっていた時代はうまくいったけど今では古臭く、非効率極まりない働き方だとおもってます。トヨタのようにそれが結果的に強いOCを生み出すケースもあるんでしょうが、多くの場合は社員が疲弊するだけでしょうね

  4. 名前:すぽ 投稿日:2016/11/29(火) 18:39:49 ID:589fc6ab0 返信

    sunさん、ありがとうございます。
    おっしゃる通りSPがあれば良いのではなく、SPが持続することが重要ですよね。私はその前提でビジネスモデルを重要視しています。
    ビジネスモデルは地形のようなものと思っていて「高地に居を構えているだけで戦いが有利になる」そんなイメージです。プラットフォーム独占やアフタービジネス型などがその例です。
    「戦略ではないもの」とOC重視。つまり日本企業は戦略を考えるのが不得手ということなんでしょうね。一方で自動車やカメラなど「すり合わせ」が価値を生む商品になると、日本企業は俄然強みを発揮しますので、OCでの強みを生みやすい組織なのも事実だと思います。
    ですがOCは「戦う前提での戦略、体育会系」であり行き着く先は消耗戦です。せっかくのカメラ市場も日本企業同士で潰し合ってしまい破壊してしまうというのもなんとも皮肉な例ですね。

  5. 名前:みやび 投稿日:2016/11/29(火) 21:35:05 ID:3f42a1931 返信

    すぽさんお返事ありがとうございます。
    すぽさんsunさんはOCには否定的なようですね…^_^;
    私はOCはただの「社員頑張れ」では無いと思っています。
    自分の中でのSPとOCは、SP「やる事」(種類)、OC「やり方」(方法)と定義されていますので、OCは「社員頑張れ」でなく、「他とのやり方がどう違うか」になります。
    OCはこの「他と違うやり方」を組織全体としてどう作り上げていくかだと思いますし、一貫性をもって改善していくことでどんどん真似がしづらいものになっていきます。
    (トヨタやセブンの方法が真似出来ないのは、改善を積み重ねた結果、簡単に真似出来ないレベルまで達してしまったからだと思います)
    SPも重要ですが、これにOCが加わることで難攻不落(いわゆる堀が深い)ビジネスモデルを構築できると思うのですがどうでしょうか?
    SPとOCの定義や境界が人によって異なるとは思いますので、なかなかに説明が難しいですね^_^;
    私の大好きなウィルグループはOC特化型で、「やり方の違い」は「ハイブリッド派遣」という形で現れています。
    これはクリティカル・コアにもなっており、真の意味で真似ができている企業は無いんじゃないかな?と思っています。

  6. 名前:かぷちーの 投稿日:2016/11/30(水) 00:36:50 ID:887e2b942 返信

    すぽさん、皆さんこんばんは。
    先日「ゆうゆーさんはSP2 OC8という感じの投資家」などとツイートしてしまったのですが、すぽさんとの投資姿勢の違いが対極で分かりやすい例として挙げさせて頂きました。
    SP重視、OC重視の優劣は決められないですし、どちらを選ぶのかはほとんど投資家の好み次第のような気がします。
    OC重視の銘柄は、マンパワーが機能している時には急激な成長が可能です。人や商品自体に魅力があると従業員や顧客が付きやすいのもある意味事実だろうとは思います。
    ただし、マンパワーが機能しているのが成長の前提になるので、創業者の引退、社内経営陣の内紛、有能な社員の引き抜きなどで業績が急激に悪化するリスクを常に抱えているのは難点です。
    SP重視の企業はマンパワーによるブレが少ないので、ビジネスモデルが壊れない限りは業績が急激に悪くなることはありません。PCデポのようにブランドを著しく毀損すると一時的な業績悪化もないとは言えませんが、しばらく経ってもビジネスモデルが健在なら復活できる可能性が高そうです。
    個人的にSP重視の銘柄の難点といえば「ビジネスモデルが理解しにくい」ということでしょうか。まぁ、その分かりにくさがあるので、多くの投資家に敬遠されて割安さに繋がっているんだと思いますが・・・(^^;

  7. 名前:すぽ 投稿日:2016/11/30(水) 18:24:57 ID:589fc6ab0 返信

    みやびさん、ありがとうございます。
    「やる事」と「やり方」という表現はとてもわかりやすいですね。
    ハイブリッド派遣は「見えてしまうこと」が気になりますね。OCは目に見えないというところがポイントで、見えてしまうと模倣を生む要因になってしまいます。
    ウィルグループについては過去にコメント欄で以下のような回答をしたことがあります。模倣の可能性について言及していますね。
    http://www.spotoushi.net/archives/42361708.html
    ———
    6089ウィルグループ分析できました。面白い企業だと思います。3.5です。
    ウィルグループは、「ハイブリッド派遣」とい呼んでいる「派遣とセットで、マネジャー(正社員)も派遣する」というユニークなコンセプトで成長している企業です。
    人件費を変動費化できる人材派遣は、経営にとってはありがたい仕組みですが、一緒に働く現場では、指示系統の分離が大きなストレスの一つです。ハイブリッド派遣はこのニーズにうまくハマって成長しています。考え方に無理がなくこれからの派遣の潮流になるのではと思うぐらいのイノベーションです。
    他社がマネすることは本来難しくありませんが、人事部が現場マネジャーになるようなものなので、それなりにハードルがあります。
    5年後の競争環境はわからないものの、利益率が高々3%の業界ですので、価格戦争にはなりづらく、ウィルグループは先行者メリットによってしばらく成長が期待できます。株価は来期PERで10.5です。
    一番イヤなのは大手が真似してくることですが、それでも成長が鈍化する程度だと思います。また、株価が安いので大きな被害は受けなさそうです。
    ———

  8. 名前:すぽ 投稿日:2016/11/30(水) 18:25:29 ID:589fc6ab0 返信

    かぷちーのさん、ありがとうございます。
    仰る通りでSPかOCかは投資スタイルによると思いますね。私の投資スタイルは人への依存を避けようとしている面があります。
    ストーリー戦略も「一人の経営者」が生み出すものですので、その点が気がかりです。OCは強みが人の中に隠れており、投資先の強みがわからない上に、競合が同様のOCをいつの間にか手に入れていても気づけません。
    私はOCに比べたらビジネスモデルの理解の方がはるかに簡単だと思っていますが、もしかしたらここが投資スタイルを分けるポイントなのかもしれません。

  9. 名前:sun 投稿日:2016/12/01(木) 18:17:49 ID:15819d64f 返信

    みやびさん
    私はOCに否定的ではないですよ。なんの戦略もなくただ目標とする数値を掲げて社員頑張れ的なプレッシャーをかけるようなやり方には否定的ですが、しっかりしたSPがあり、その結果その分野でのOCが磨かれていくようなものなら模倣の障壁になりますしとても良いのではないでしょうか。
    ただ私にはどちらの理解も難しいものです。私のレベルだと財務諸表から状況証拠を積み重ねるのが関の山でして、みなさん様々な業界の事象に明るくいつも勉強させて頂くことばかりです